創作日誌記事

熊谷の衣装ノート

こんにちは。
アガリスクエンターテイメントの熊谷有芳です。

『わが家の最終的解決』終演から3週間が経ちました。
改めまして、ご来場まことにありがとうございました。

個人的なアレコレは個人のブログにまとまってるので気が向いた方はよろしければご覧ください。

YUK@BLOG

 

さて、今回こちらではアガリスクで衣装を担当している熊谷による『わが家の最終的解決』衣装解説なんかをやっていこうかと思っています。
どうぞお付き合いください。

 


Hans Steiner

【ハンス=シュタイナー】…斉藤コータ

〈通常スタイル〉
初演とほぼ変わってないコーディネート。
初演ではベストなしのサスペンダーでした。

当初、今回のハンスには生活感を与えてみてはどうだろうとニット系のトップスを考えていました。
「ゲシュタポサイドの人間は黒で固めたい」というオーダーもあり黒系のニットと思ってたのですが、「グレーな存在」という意味合いでグレーのカーディガンを用意しました。
が、早々にボツに。

演出の冨坂さん的にはシンプルな・あまり生活感のないものがよさそうでした。
ニットの厚み・あたたかみがイメージにそぐわなかったのかもしれません。
そこで代案として用意していた黒ベスト案が採用になりました。
最初は「ウェイターみたいにならないか」とか「アルフレッドと被らないか」など懸念してたんですが、これが意外としっくりきました。

むしろ良いコンビ感。

スタイリッシュでかっこいいのですが、裏でやばい仕事やってそうな人感も出ていてシンプルながら気に入っております。

ちなみにハンスは第二話でベストを脱ぐことになるので、正確には3パターンあることに…
いや第二話の終わりでジャケットを着るシーンもあるので4パターンですね。

〈ゲシュタポ制服〉
コータくんは初演ではカールというハンスの同僚役で出演されてたのですが、
同じ制服のはずなのにこうも違って見えるか…と少し驚きました。
役者さんなんですから、そりゃそうなんですけど、役者ってすごいなあと少し感動してしまいました。

ちなみにハンスは初演も再演もストレートの黒パンツ。
ナチスの制服は乗馬パンツの印象が強いですがストレートパンツもあります。

ちなみに、1942年はすでにグレーの制服が主流だった時代。
本当は黒服は着ちゃダメだったらしいんですけど、若い人なんかには人気があって、着ちゃってたという情報もあります。

再演にあたって改めて「グレーにしないのか」と確認しましたが、やはり「黒服で!!」と強くご所望の冨坂さんでした。

 


Eva Oppenheimer

【エヴァ=オッペンハイマー】…熊谷有芳

最初に決まった衣装です。
とにかくエヴァの衣装を一番に決めて、それから全体のバランスを決めようと思ってました。
エヴァとリーゼの衣装にこだわりたくて、二人のワンピースはヴィンテージの古着屋さんで買いました。

初演の時からエヴァは青系ってのがなんとなくイメージとしてあって、エヴァの聡明さと純粋さと気高さを表したかったのだと再演になってから思いました。
濃い青もイメージには合うのですが、遠目で見た時に暗い色に見えてしまうとまずいので、パッと明るい水色がいいなあと思いました。
そして水色の持つ幼さ・少女性が今回の「もっと恋するヒロイン」なエヴァにはぴったりでした。

あと『リトルマーメイド』のアリエルとか『美女と野獣』のベルが街で着てる水色のワンピースの、ディズニーヒロイン像がイメージにあったのも確かです。
水色はわたしにとって「活動的なヒロイン」のイメージカラーなんです。

ヒロインらしさを求めてふんわりした見た目がよかったのですが、いかんせん熊谷の体がふんわりしてないので、このワンピースには本当に助けられました。
袖口やウエストの丸み、スカートのドレープの寄り方がヒロイン感の助けになってくれました。

このワンピース本当は共布のリボンベルト付きで、共布のほうが1940年代風にはなるのですが、かわいらしくなりすぎる点・衣装としてはのっぺりしてしまう点を考慮し、初演でも使用した茶色のベルトにしました。

ちなみに…再再演があるならば、のプランももう考えてます…ふふふ

 


Alfred Chapman

【アルフレッド=チャップマン】…矢吹ジャンプ

あまり変えるつもりがなかったのに結果大きく変わったアルフレッド。

まずアルフレッドの年齢を上げようという話が冨坂さんからあり。
白髪か、眼鏡か、となったのですが眼鏡があまりしっくり来ず白髪に。
ジャンプさんは白髪メイクがとってもお上手(『そして怒濤の伏線回収』で経験済みだし)

衣装に関しては、ハンスとの差を出すために薄い茶系で…と考えていたのですが、
初演でかなりざっくりした衣装にしてしまった反省から、今回はちゃんとセットアップを用意しました。

とある写真を見た時に「グレー×赤」の組み合わせが、高級感があって優秀で誠実で真面目そうなカラーリングだなあとビビッときて、変更を決断しました。

ウールでなかなかしっかりしたスーツが見つかったので「ヨッシャー!」と喜びました。
なるべくね、素材にもこだわっていきたいのですよ、アルフレッドには貧乏くさく見えてほしくないのでね。

あとお気に入りなのがアームガーター!(袖をつまんで長さを端折るベルト)

ジャンプさんにとってもお似合いになるだろうと思いまして!
執事ぽさがぐんと増すような気がします。

 


Otto Oppenheimer

【オットー=オッペンハイマー】…藤田慶輔

オットーはかなり初演のスタイルを踏襲しています。
パンツが初演と同じ物だったり。同じアイテムなのはそれだけですが。
茶系でまとめたかったのと、今回はセーターを着せたいというのがありました。
そして3話でジャケットが必須になるのも初演同様。
基本はセータースタイルでいきたかったのですが、クリスマスパーティー用に3話でもジャケットを着てもらいました。

ベージュのコートがとてもお似合いで気に入ってます。

そしてやはりヒゲとモミアゲが本当に素敵!!!

ちなみに茶系でまとめたかったというのはオットーに限らずオッペンハイマー親子の共通カラーなのです。
この話はまた後述。

 


Leah Oppenheimer

【レア=オッペンハイマー】…前田綾香

夫のオットーが茶×グリーンだったのに対して、レアは茶×赤。
ちなみにエヴァは茶×ブルー(茶の面積少ないけど)
赤は赤でも深めのボルドーで落ち着いた印象に。

ブラウスは初演と同じもの、色と形が気に入っていたので…と言っても形はほぼ分かりませんね。
カーディガンのパイピングの色がシャツとバッチリだったので、カーディガンはよっしゃーってなったアイテムです。
スカートのエスニックみたいなカントリーみたいなペイズリーみたいな不思議な模様も気に入ってます。

そしてコート着用時には初演と同じスカーフを被っていただきました。
綾香さんの似合い方ハンパないって。。

 


Joseph Altman

【ヨーゼフ=アルトマン】…津和野諒

ヨーゼフにはニットを絶対に着せたくて…!
冨坂さんとの協議の結果、「ベストを着てる人はおもしろ人間感がある」という偏ったイメージによりベストにしました。

ヨーゼフはヒロインに恋する男。
彼女には言えないけど、今にも積年の恋が爆発しそうな、愛に生きる男。

なので恋心を表すピンクを使おうと思いました。
安直ではありますけれど、女性にピンクを使わずあえて津和野くんに使った点は自分で気に入ってます。
しかし濃すぎず薄すぎないピンクを探すのは難しい…!今後の教訓です。

さて、先述の通りオッペンハイマー親子を茶で揃えたのですが、ご覧の通りヨーゼフには茶色は使いませんでした。
なぜなら彼はオッペンハイマー家とは血の繋がりがないから。

作中では描かれていませんが、幼馴染とは言えなぜヨーゼフがオッペンハイマー一家と行動を共にしているのか。
特に明確な答えがあるわけではないのですが、おそらくヨーゼフにはもう家族がいないのです。

その寂しさと孤独感を出すために、オットー・レア・エヴァの3人とは線をひこうと思い、ユダヤ人グループという括りではなくオッペンハイマー一家にだけ統一感を与え、敢えてヨーゼフだけずらしました。

こう書くと仲間はずれにしてるみたいでちょっと胸が痛みます。。
再再演があるならば、また少しその先まで考えたプランニングをしたいな。

 


Margarethe Einhard

【マルガレーテ=アインハルト】…鹿島ゆきこ

白っっ!!!
スーツ探しはだいぶ苦戦しましたが…最終的に見つけたこのクリーム色のセットアップがとてもよかった!似合う!!

そして白のコートを見つけたときに、「全身真っ白だけど、どうなん…?」とかなり葛藤したのですが、稽古開始時間に間に合わなくなりそうだったのでええいと買ったのがこれ。
結果、良い感じに纏まってくれました。
気品よ…!!!

バッグと靴を茶色にして締めてるのに加え、さらにこのお帽子ですよ。

お、お洒落ェェ…!!
なんとこれ鹿島家からお借りしたものです。
オレンジのリボンが色のアクセントに。かわいらしい。
かわいくなりすぎるかと心配でしたが、髪型や斜めにかぶってくれたりなどのおかげでしっかり大人のレディですね。

そういえば初演も白のワンピースでしたが、今回のグレードアップたら凄まじいですね。

ハンスとマルガレーテの生まれ、シュタイナー家はそこそこ裕福な家庭と言う設定だったのと、なんせ国家弁務官の妻なのでとにかく高級感を出すことに命を掛けました。
高級感とは言っても鼻につかない感じの、上品なもの。

それと、イヤリング・ネックレス・ブローチなどの小物もきちんとつけて。

トータルで、とにかく鹿島さんが綺麗に着こなしてくれたのでバッチリでした。

 


Fritz Einhard

【フリッツ=アインハルト】…伊藤圭太

当初、初演と全然変えない予定だったのです。
しかし、アルフレッドをグレーにすることにしたので同じグレーじゃなんだかなぁって感じだったのと、フリッツはどちらかと言うとゲシュタポ寄りのカラーリング、つまり黒に近い色でいいんじゃないかって思ったのです。

とは言え黒は使いたくない。
そんな時に出会ったのが、この紺に白のピンストライプのセットアップ!
ストライプのどうしても知的に見えてしまう感じや、素材も冬用で厚手の高級感ありめのものだったので「これや!!」と思い買いました。

ネクタイの色はすっごく悩んだのです。
基本、派手な色を使いたくなっちゃうのですがお店で紫とか見てもどうもしっくりこなくて…
そんな時に出会ったのがこのゴールドのネクタイ!

模様はかわいらしい小花柄。
裏のタグを見ると”margaret”の文字が。
マーガレット、そう、すなわちマルガレーテです。

ちょっと、ぶるっと来ますよね、こういうのは。
運命感じたので即決しました。

超愛妻家だからね、フリッツは。

 


Rudolf Dietrich

【ルドルフ=ディートリヒ】…高木健

ゲシュタポの制服は手作りなんですが(初演から作り直してる)、高木くんがすっごく撫で肩なので肩パッド2枚入れました(笑)
(コータくんのも2枚入ってるけど)

初演の時に色々あって間に合わなかった褐色シャツを今回は導入しました。
このほうがハンスと混ざらないので。
でも、上着を脱いだだけでは、乗馬パンツもあるし、普通にゲシュタポだってバレそうなもんですけどね…と内心思っているところに蓋してエヴァを演じてました…(笑)
ここらへんは結構お芝居の嘘ポイントかなぁ、なんて。

ちなみに、褐色、というもののカラー写真ってほとんど資料では無くて。
たまに見かけるのも黄色が強いもの、ベージュが強いものと様々で本来どの色が正しいんだろうと未だに解決していません。

そしてエピローグの衣装。
水色にしたのは、エヴァとダブらせるためです。

Twitterで「収容所のストライプの囚人服を意図しているのか」という指摘を拝見したのですが、そこは特に意識していませんでした。
たしかに、リーゼのワンピースもストライプだったんですよね…
た、たまたまです!

ちなみに高木君にはチャームポイントのおヒゲを剃ってもらいました。

 


Liese Gärtner

【リーゼ=ゲルトナー】…榎並夕起

顔合わせの段階で「リーゼを無自覚だけど厄介なお嬢様にしたい」という話が演出からあって、
「じゃあ思い切って真っ赤なワンピースはどうだろうか・赤と黒はナチスのカラーだし、完全にナチス側の人間として衣装を着させる」という提案をしました。

どんだけキツイ印象の服・色を着ても、ゆきちゃんの持前の可愛さで中和されるだろうという狙いもあって、赤のヴィンテージドレスを購入しました。
本当は共布の赤ベルトがついてるんですが、高級感を出したいのと軍服感も出したかったので、黒×ゴールドのベルトでパキッとさせました。

やっぱり外国の古着は、そこらへんの洋服屋さんにはないデザインばかりで惚れ惚れしてしまいます。

モコモコの黒コートも高級感があってとてもナイス。

リーゼの高級感はマルガレーテとは違う、ちょっと鼻につくものにしようと思ってたので、ファーだったり、赤×黒×金というゴテゴテ(でもカッコイイ!!)の色使いにしました。

裏ヒロインとしてエヴァとは対照的になるようなデザインにしました。
髪型も二人とも下ろしてるのですが、エヴァはふわふわ、リーゼはキュッとしてギャップを出しました。
衣装も髪も、普段の熊谷と榎並のイメージの逆をいこうという狙いです。

エピローグの衣装は急遽揃えたわりにかなりいい感じです。
ワンピースもカーディガンも劇団員から借りた…マジありがてえ。。
エピローグは出番が一瞬なので、出てきた瞬間に誰か判別がつきやすいように赤を入れたかった。
本編と比べてぐっと庶民感が出てるのもよい。

 


Heinrich Gärtner

【ハインリヒ=ゲルトナー】…中田顕史郎

顕史郎さんと衣装の打ち合わせをして、「やはり黒の革のコートだよねゲシュタポは…!」ということでどうにかこうにか入手したコート…
いやはや本当によかった…。

身長も高いので威圧感があり、とてもよいです。

黒のスーツはご本人からお借りしましたが、ネクタイが真っ黒じゃなくてよくみると柄が入ってるのがポイント。
ちゃんとお洒落なのがイイ。

ちなみにゲルトナーがお手洗いに行くシーンに際し、「ハンカチはどんな柄がいいのか」と相談を受けてわたしも調べたんですが、ハンカチの柄は当時も現在もそう大きく変わりませんでした。
無難なチェック柄からエキセントリックな柄までなんでもアリのようでした。
そんなゲルトナーさんが使ってたのは象さん柄でした。
チャーミングでしょう?

 


Sandra Hermann

【サンドラ=ヘルマン】…前田友里子

実は今回いちばんのお気に入り衣装です。
ブラウスは初演サンドラを踏襲。このデザインがとにかく好きで…(初演時に買い取ったはいいものの私生活では一度も着てない)

カラフルなビタミンカラーにしたくて、明るいグリーンを使おう!というのは最初から決めてました。
それと頭にスカーフを巻くのも絶対にやりたかったポイントです。

カーディガンは、後からあったほうがいいなと思って足したのですが、
有力候補だった白カーデがいまいち合わず、先に買ってた控え選手の黄色カーデが結果として綺麗なビタミンカラーを完成させてくれました。

エプロンは我が家にあった謎にカントリーでクラシックなエプロンを。
似合うねえ。

エピローグは着替えの時間がほぼないので脱ぐだけスタイル。

総じて、戦時中で苦しく貧しいながらも、明るくお喋りで料理好きなおばちゃん像がよく出来たなと思います。
何よりこの明るい服が前田によく似合う!

 


Bram Hermann

【ブラム=ヘルマン】…山田健太郎

ダサカワセーターを着せたくて探し歩いてたら、出会いました。
木と人間の模様が編まれたセーター。。。
クリスマスっぽいし、なによりすごくかわいい。
[ダサ4:カワ6]くらいで可愛いが優勢ですが(当社比)、でも個性的でとても気に入ったデザインです!
ま、遠目で見たらそんなにわからないけれどもね。

それとサンドラのグリーンとも相性がいいのでなおよし。

エピローグでは、なんとか付けさせたかったサスペンダー姿をお披露目することが出来ました!似合う。
こちらもサンドラ同様脱ぐだけスタイル。

 


Lars Vandenverg

【ラース=ファンデンベルク】…山岡三四郎

チェックのジャケットをどうしても着てほしくて、探すのに一苦労でした。
結局このジャケット、初演でオットーが着ていたものなんです…!
気づいた人いたら、すごい。
(ちなみにオットーのセーターは『笑の太字』で塩原先生が着ていた)

ファンデンベルクは大家で地主。
お金持ちなので身なりがちゃんとしていて、且つお洒落な人がいいなあと思いました。
セットアップのチェックスーツだったら最高だったのですが、今回は自分の力不足!無念!

とは言えこのコーディネートも結構気に入ってます。
ご本人私物の黄色のネクタイがいいアクセントになって、優しいけど曲者な感じを出してくれてるなあと。

エピローグはこれまた脱ぐだけスタイル。
季節は秋ごろの設定です。

 


???

【原稿を取りに来る男】

本名不明というね…

そんな彼のイメージは『ナチスの犬』に登場する、教会(ユダヤ人が捕まりすし詰め状態の)で歌を歌ってる掴みどころのないおどけた男(名前は失念)。

ちょっぴりルーズな着こなしにグレーのベストにジャケット、それと帽子。
とは言え、この原稿の男にあまりルーズな恰好は似合わないので、シャツを開襟にするだけにしました。

リサイクルショップでたまたま見つけた個性的なイエローのジャケットが気に入り即決。
写真じゃわかりませんが、ところどころに切り返しが入ってて変なデザイン。

シャツは柄入りのシャツにしようとしたんですが、ヤクザみたいになっちゃうと困るのでうっすらストライプのシャツにして、全体のまとまりをよくしました。

結構ギリギリまでヨーゼフと原稿男の帽子は逆だったんですが、サイズの都合でこちらのバージョンに。
結果、淺越君もなかなかキャスケットの似合う男だったのでよかった。

 


 

随分長くなってしまいましたが、こんなところで。

しれっと再再演のこと書いちゃいましたが、上演は未定です。
やる意志はありますけれどね!

どうかその時まで、この公演のことを覚えてていただけたら、そして再再演が実現の暁には応援していただけたらなあ…!
と、ひそやかに願いを込めて。

そのうちDVDも完成して発売されますので、そちらもぜひお楽しみに。

 

それでは。
アガリスクエンターテイメントの熊谷有芳がお届けしました。