創作日誌

(インタビュー)『わが家の最終的解決』作・演出 冨坂友

『わが家の最終的解決』作・演出の冨坂さんに作品に関していろいろ聞いてきました。

インタビューは最終稽古を終え、劇場入りする前日に敢行。

当日は劇場に入る前の最後のオフでしたが、主演の斉藤コータさんはじめ、数人の役者が自主稽古が夜まで行われていました。誰もいなくなった稽古場で冨坂さんが語ったこととは?

 

※若干のネタバレが含まれますので観劇前の方はご注意ください

『わが家の最終的解決』作・演出:冨坂友

 

(聞き手:演出助手・井上)ホロコーストを背景にしたシチュエーションコメディを書こうと思ったそもそもの理由を教えていただけますか?

 

冨坂: 基本的に誰かが嘘をついて、どんどん話がごちゃごちゃになる、みたいなコメディはずっとやりたくて。そのためにお芝居を始めたんです。

三谷幸喜さんの作品の『君となら』とか 『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』とかはそういう話で一番影響を受けた作品ですね。常日頃から、どういう設定だとコメディに落とし込めるかっていうのは自然と考えて、もはや考えようとせずとも自然と世界をその目で判別をしている節がありますね。

アガリスクが悲劇的な状況とか酷い状況とシチュエーションコメディを掛け合わせるみたいなことをやるのにはまっていた時期がありました。その時に思いついて取っておいた設定を2016年に上演したという感じですね。

 

井上: 初演を経てどのようなことを感じられましたか?

 

冨坂: 背景にしている物語が物凄く巨大な話で、嘘がばれた結果に起きることが生死にかかわること、という振り幅大きい話でした。他のこじんまりとした話とは違ってお客さんも受け止めづらいんだけど、受け止めてくれて満足してくれた、そんな印象でした。

基本的に手応えみたいなものは感じつつ、まあでも、ちょっとここら辺はもっとやれることがあったな、とかここら辺もっといけたよなっていうことは感触として持っていました。

 

井上: 初演から2年を経て再演に至る経緯はどのようなものだったのでしょうか?

 

冨坂: アガリスクの中でも再演したい作品みたいなの話って結構話しているんですね。『わが家の最終的解決』はいつかやりたいよね、っていうことはぼんやりみんな持ってる状態でした。

実際に上演が決まったのは前回公演の『卒業式、実行』を終えた後のタイミングですね。その際に『わが家の最終的解決』を再演するなら大きめの劇場でやりたいなと。初演のシアターKASSAIもいい劇場なのですが広さの関係でこの規模の話をやるにはちょっと制限がありました。

この作品は間口が広くて、客席と舞台が明確に分かれて言うようないわゆる劇場らしい劇場でやった方が似合うなっていうイメージがありました。最初は大きい公共ホールが取れないかといろいろ画策し、うまくいかなかったのですが、そこで恵比寿エコー劇場に出会いました。

恵比寿エコー劇場は海外のシチュエーションコメディを日本に輸入して応援していたり、井上ひさしさんの書き下ろし作品とか、コメディに縁のある劇場だったんですね。

近代的なブラックボックス形式の劇場と違って、古き良き雰囲気を持つ劇場だったので、この作品を上演するにはちょうどいいと思って決めました。

 

井上:再演するにあたって、初演からどのような点を変えようと思いましたか?

 

冨坂:『わが家の最終的解決』みたいな嘘をついてごまかして、っていうシチュエーションコメディにはいわゆる「型」があって、お客さんに適切な情報を渡して、100人いれば100人の理解を揃える芝居の作り方をするんですね。

でも、その手法がベタすぎたなと。

『わが家の~』のような非常にセンシティブな題材を扱うのに、そんな記号的な芝居だけでもいいのかな、お話のレベルでもコメディのよくある展開に頼ってしまった。そういう部分にじっくり取り組みたいなという思いで今回作っています。

 

井上:今回、実際に物語の舞台になったアムステルダム(オランダ)などに実際に取材旅行に行かれたとのことですが、そこで得たものでこの作品にフィードバックされたことはありますか?

 

冨坂:地理の感覚的なことがすごくわかるようになったのは大きな収穫でした。例えばゲシュタポ本部庁舎があったところや中心地のダム広場なんかをまわったのですが、アムステルダムという都市は想像していた以上に街全体の密度が高かったです。

いかに狭い中で隠れていたのか、その感覚はつかめましたね。

日本で例えると東京みたいな広さ、というよりは新宿くらいの規模のイメージです。徒歩でだいたいの場所になんとか行けてしまう。そして家がとにかく密集している。

オランダのあとは電車やバスを乗り継いでドイツを経由してポーランド行ってきました。ちょうどポーランドに入ってから、アウシュビッツに行く途中の電車の中でフランクルの『夜と霧』という本を読んだのが非常に印象に残っています。

取材旅行が具体的に影響を与えた個所を言うのは難しいですが感覚としてより実感を持って作品を作れましたね。(冨坂さんの取材旅行記事はこちらから)

 

井上:『わが家の最終的解決』という作品がアガリスクエンターテイメントにとってどんな作品で、これからの上演を経てどのような存在になっていくと考えられていますか?

 

冨坂:今回の再演はシチュエーションコメディらしい記号でやらず、ストーリーで語っていくということを意識して作ってきました。昨日(最終稽古)の通し稽古とか見てて、なんだか自分たちっぽくないということも少し思いましたね。それは悪い意味とかじゃなく、まっとうに泣いたり怒ったりするいう芝居やってるなと。

他の作品でもそういうことはあったのですが今回はコメディとしっかり両立させられているという感覚は今回はあります。

感情的になる場面が多い作品ではあるのですが、その中でも「うける」芝居をしっかりするということが今回俳優の皆さんには大事ではないかと思っています。「うける」ためには間だったり呼吸だったりどうしてもテクニカルに自分を冷静に客観的に見ながらやるしかない。そのことが結果的に作品全体に影響していく。

しっかりと物語があるので、ただ、登場人物の感情だけに振り回されないというのが今回の作品作りにおいて非常に大事ではないかと思っています。その両立を明確に目指すという意味でアガリスクエンターテイメントにとって意義のある作品になるのではないかと思っています。

 

井上:今回、主演のハンスを斉藤コータさんが演じるということになりましたが、コータさんに期待していたことはなんですか?

 

冨坂:正直な話をすると、最初から絶対にコータさんで決めていたっていうわけではありませんでした。色々な要素との兼ね合いの中でコータさんお願いします、となりました。

ただ、以前から斉藤コータという俳優はものすごく信頼していました。アガリスクに一番たくさん出てる客演さんですし、大好きなんです。もしかすると劇団員よりもアガリスクにでているかもしれない。

一方で、彼はやっぱりコメディ、その中でも特に早いタイプのコメディに特化している俳優だと思っていたので、物語に夢中になってくれるのかしらっていう先入観みたいなものはありましたね。

お話にガッチリ関わるというよりも、話には関係はないけれどもたくさん出ているポジションが一番似合うんじゃないかなって思っていたし、周りにもそういう風に思われていたと思います。

 

井上:そんなコータさんに対して稽古を終えた今、印象に変化はありましたか?

 

冨坂:稽古が始まったばかりのころは、まだそんなにお話と言うか、その状況に没入している感じに見受けられなかったんです。それが第3話の稽古で途端に、いきなり目覚めたところがあって、そこですごく驚きました。コータさんがこんな感情的でエモーショナルな芝居をやっているという新鮮な驚きですね。

しかもその芝居がいわゆるお話をやっています、っていう型にはまっていうやり方ではなく、斉藤コータという人間がそのまんま、その大変な状況に陥って泣いたり笑ったり、すごく感情が動いているように感じました。それを見て、もう大丈夫というか、これなら安心して任せられると。

さらにそこから、話に没入しているだけではまずいと思ったのか、コメディアンらしいところが少しずつ見えてくる段階になってきて、お話に没入している新しいコータさんといつものコータさんの両方が掛け合わされたっていう嬉しい驚きはありましたね。

 

井上:熊谷さんが演じるヒロイン・エヴァに関してはいかがでしょうか?

 

冨坂:今回の熊谷さんに関しては座長感とでもいいますか、「自分がこの芝居を何とかする」という気概みたいなものを感じて凄く頼もしく思っています。

彼女にとって初演の『わが家の最終的解決』はアガリスクエンターテイメントに劇団員として入って最初の公演なんです。それまで客演として2回ぐらいは出てもらっているんですけど、その2回に関してもどんどん笑いをとりに行く役割というかはお話を進める役割を担っていました。初演の『わが家の最終的解決』に関してはコメディの領域に無理やり合わせてたっていう感じがあって、ぎこちなさみたいなのもありました。

それからアガリスクで何作も一緒に作品を作ってきて、コメディとして成立させなきゃ、という気負いがどんどんとれてきて自然とコメディになるようになってきました。

もともと熊谷さんはお話の核を担えるし担いたい役者なので、お話とコメディを両立させる今回の『わが家の最終的解決』に向いているよな、という思いはあります。

 

井上:初演から特に変わった登場人物はいますか?

 

冨坂:ルドルフは同じ登場人物名ですけど、全然違う役になっています。

今回演じてくれている高木健さんがガテン系強面の俳優なので彼に任せるのであれば、いっそ、そっちに振り切りたいと思いました。個人的には、この変化はすごく見て欲しいなーっと。

あとはゲルトナーが中田顕史郎さんに演じてもらっているというのは大きな変化ですね。『卒業式、実行』に引き続きまた出てもらっているんですけど、ゲルトナーという登場人物にラスボス感が欲しかったのと、最後の最後に彼が何を決断してくれるかというところは是非見てほしいですね。

 

井上:最後に本番の前にぜひ言っておきたいことがあれば

 

冨坂:20代、30代くらいの作り手が中心の小劇場劇団がナチス物の歴史の話をなぜかシチュエーションコメディという手法で上演するという、この行為自体が現代の演劇シーンからすると誰が得をするのかわからない企画なんです。

ただ、このブラックなネタとこの題材を絶対にシチュエーションコメディにして成立させるという意気込みも含めて、他のどこでもやっていない舞台が観られると思います。劇場でお待ちしています。

ゲネプロを見つめる冨坂さん

(おわり)

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